『そして、バトンは渡された』-瀬尾まいこ著
本屋大賞と言う言葉が有名になって久しいけど、受賞作を読むのは初めて。
結構期待して読んだ。
とても読みやすかった。
読後感もいい。
正直なところ「本屋大賞」と言うから、ガーンとくるような感動を期待していたのだけれど、それはなかった。
どちらかと言えば静かな感動だ。
ゆえに物足りないと感じる人もいるだろうし、私も読了直後は物足りなさを感じた。
でもこうして書評を書いているうちに、この物語の良さが、じわじわと染み入ってきた。
そんな作品。
(以下ネタバレ)
幼いころに母を亡くした主人公の優子は、父の再婚によって血の繋がらない母ができたことを皮切りに、その後何人かの血の繋がらない親と暮らすことになる。
親は何度か変わり、高校生の今、3人目の父と2人で暮らしている。
その生い立ちを聞くと、どこか寂し気な気配を感じるかもしれないが、この物語に悲壮感はない。
家族は、優子を軸に形を変えていくけれど、どの親たちも血の繋がりを超えて優子に深い愛情を注ぎ、優子も、いつかまた親が変わるときのためにどこか淡々としつつも、親たちの愛情を確かに感じている。
愛情深く育てられた優子は、まっすぐで優しい女性に育っている。
率直で、時々ぎこちなくて、不器用で、純粋で、どこまでも憎めない家族の物語。
親たちは「優子」と言う何よりも大切な存在を守るために愛情のバトンを受け継ぎながら「家族」を紡ぎ、そして最後に、そのバトンは優子自身が築く新しい家族へと渡される。
とても優しい言葉で綴られ、折々に登場人物たちの言葉も印象に残る。
あるとき、3人目の父 森宮さんと優子は、ふとした会話がきっかけでぎくしゃくしてしまう。
血の繋がった家族を知らない優子の気持ちは、こんな風に書かれている。
『私たちは本質に触れずうまく暮らしているだけなのかもしれないということが、何かの瞬間に明るみに出るとき、私はどうしようもない気持ちになる。』
父とぎくしゃくしていることで、何も手につかないことを優子は周囲の人に打ち明ける。
「そんなことで?」と笑う同級の友人たち。
友達は血の繋がった父について「不潔で厄介」と言い、好きな男の子は血の繋がった母について「苦手」という。
血が繋がっている親子の在り方が、自分が思っているほど分かりやすい信頼関係によるものでもなさそうなことに優子は驚く。
そんな優子に教師がこんな言葉を掛ける。
『一緒に住んでる相手と気遣い合うのは当然のことだし、それは、遠慮してるからだけじゃなく、お互いに大事にしあっているからでしょう。』
『きっと、こういうことの繰り返しよ。家族だって、友達と同じように、時々ぶつかったり自分の思いを漏らしてはぎくしゃくして、作られていくんじゃないの?』
そうして作られていった優子と森宮さんの「家族」。
物語の最後、優子を夫となる人へ送り出す森宮さんの心情が綴られる。
『本当に幸せなのは、誰かと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。』
この4つの言葉はどれも真実で、この4つの言葉がこの物語を表していると私は思う。
親との間のギクシャク感、わかりあえなくて、でも分かりあおうと気持ちを伝えて、何かを乗り越えて。
時に上滑りし、時に打ちひしがれ、自分は家族と良い関係を築けているだろうかと悩む。
そして家を出ていく日、何もかもがいったん更地に戻るような真新しい気持ちの日。
更地になった自分の土壌がとても豊かなことに気づく。
自分が確かに愛情を受け、多くの人に見守られて生きてきたことを改めて知り、体の奥から眠っていた力が湧き出るような心強さを抱く。
その日踏み出す未来への一歩は力強く明るい。
そんな経験を、血の繋がった両親との間で私は重ねてきた。
優子が思っていたほど、血の繋がった親子は単純ではないけれど、同時に、友人たちが言う「不潔で厄介な父」「苦手な母親」という言葉をそのまま受け取っていいほど単純でもないのだ。
きっとその友人たちにも、もどかしい家族の物語がある。
家族は、血の繋がりではないのだ。
人間同士が、ぶつかったり、思いを伝えたりして、不器用に、でも愛によって形作っていくものが家族だ。
血の繋がりは、家族が離れないことを助けてくれはするけれど、血の繋がりがなければ家族が離れてしまうということではないし、血の繋がりさえあれば大丈夫だということでもない。
両親、祖父母、曽祖父母、その前。
連綿と受け継がれてきたバトンが今、自分の手の中にあること。
私たちは受け取ったバトンを手に人生を生き、やがて未知の未来へとバトンを渡す。
私のために頑張って繋いできてくれた人たちのために、よりよい未来のために、今このバトンを握りしめ、一生懸命に前を向いて、進もう。
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